下甑島に伝わる神秘的で厳かな伝統的教育行事「トシドン」

公開日: : 最終更新日:2015/01/26 せきこから見た下甑島

こんにちは。最近よく風邪をひくせきこ(@sekimihoko)です。

 

やってきました、年末。下甑島の年末といえばそう、「トシドン」です。

というわけで今日はトシドンについての日記です。

 

※いまこのページをみている、しょうがくせいの子どもは、パソコンをとじてください。

(大人の方へ、理由はのちほど・・・)

 

トシドンって?

 

トシドン_DSC1597

トシドンとは「年の神様」の化身のことで、下甑島で昔から行なわれている子供のしつけ(幼児教育)の行事です。古くは藩政時代、年長者が若者を教える薩摩藩の郷中教育の面を持っていたり、農耕儀礼の面を持っていたりしてきました。(下甑郷土史p145より)

昭和52年には国の重要無形民俗文化財に、平成21年には現在はユネスコの世界無形文化遺産に登録され、自治会ごとに保存会が設立されています。島外不出であったり、キャラクター化していなかったり、保存会によっては取材や撮影を禁じているところもあったりします。

 

トシドンはどこから来るの?

トシドン_DSC1509

そんなトシドン様は、一年に一度大晦日に子供のいる家庭にやってきますが、普段はいったいどこにいるのでしょうか。

下甑郷土史(2004)によると、集落別にちょっとずつ、トシドン様の来る経路が違うようです。

【1】手打地区、港集落

⇒天上から首切れ馬に乗って馬乗り瀬(港集落にある手打港の入り口)に下りてくる。

【2】手打地区、麓集落

⇒天上界から首切れ馬に乗って、子供のいる家の近くの高い木、勝山(麓集落)、もしくは馬乗り瀬に下りてくる。

【3】手打地区、本町

⇒天から首切れ馬に乗って、馬乗口(手打港)や山から下りてくる。

【4】片野浦地区

⇒天からやってくる。

【5】瀬々野浦地区

⇒普段はサエーガ松のトシドン石から子供達を見ている。

鈴のついた首無馬(チッキェ)に乗ってやってくる。

【6】青瀬地区

⇒天からくだってくる。

共通しているのは、「普段は集落には居ないで遠くから子供達を見ている」ということ。いくつかの地区では首切れ馬、首無馬に乗ってやってくるというところも共通しているみたいですね。

大晦日の日にやって来る怖い神様のトシドンですが、両親や祖父母の言うことを聞かなかったり、友達と喧嘩したり、欲しいものを買ってと駄々をこねたり。そんなことをしていたら「トシドン様が見てるよ!」と言われるわけです。

実際に知り合いの子供でも親に叱られる時に「トシドン様が来るよ!あ、電話が来たね。トシドン様からかな・・・」という会話が行なわれていてしっかりと子供達に根付いているんだと感心しました。

 

実録レポ~私とトシドンと、子供と闇~

トシドン様の格好や、行事の内容などは地域によって少しずつ異なっています。私が去年見せていただいたところでは写真や映像の撮影が禁止されているので許可をいただいた「文章とイラスト」でのお伝えとなります。

 

12月31日大晦日 18:00ごろ

関係者が地区コミュニティセンターに集合、扮装して準備を行ない、準備を終えたら家々に出かけていきます。

メンバーは、トシドン様(壮年、青年)、トシドン様の家来衆(つきし・中学生~大学生)、世話役、そして私たち見学者。

 

大晦日の楽しい家族の団欒。紅白歌合戦やバラエティー番組を見ていたお茶の間は突然として暗闇に包まれます。

(家族が子供に気付かれないように電気を消す。)

トシドン4

「ダーダーダー!!!」「ヒョーーー!ヒョーー!」馬の嘶きの声をあげる家来衆。

「カーン、カーン!」という拍子木の音は馬の蹄の音。

「おるか!おるか!(名前)!!ここに来て、障子ば開けえ!」

 

大晦日の楽しい団欒の最中、荒々しい声でいきなりやって来るトシドン様。子供達は驚き怖がりなかなか障子をあけません。

「障子ば開けんか!でないとずっとおるぞ!帰らんぞ!」

再びトシドン様が声をあげると、子供たちは親に励まされ恐る恐る障子を開けます。

トシドン6

障子が開いたらトシドン様は膝立ちでスルスルと、部屋に上がってきます。横一列になるトシドン様。

トシドン5

子供たち自身や、親の名前、兄弟の数や幼稚園や小学校のクラス名を聞いたりします。

恐ろしい顔をした、腹の底から湧き出るような声のするトシドン様を相手に、質問に答え受け答えをするというのは幼稚園生、小学校の低・中学年の子供達にとっては試練のようなものです。

トシドン3

震えるような声で答えをかえそうものなら「声ば小さか!もっと大きく返事ばせんか!」と怒られてしまいます。

 

そしてそののち、前もって保護者にアンケートをとっていた内容を基にまず、日頃の悪い点を指摘します。

 

「おれが天上界から見ていると、お前は机がいつも汚いようだな!勉強は綺麗な机じゃないとしっかり出来なかたっでな!」

「宿題ば、いつも前の日にせん(しない)な!」

「いつもいっつも、お姉ちゃんと喧嘩ばかりしとるな!!」

「いつも天上界から○○(名前)のことを見とるでな、分かったっど!」

 

叱られた子供達は真剣な顔つきで、時にはべそをかきながら、これからはそんなことはしないと、時には親のフォローも受けながらトシドン様と約束をします。

「本当だな!トシドン様はいつも見てるからな!」「はい!もうしません!」

トシドン様たちの言葉は方言が強く荒々しいですが、ゆっくりとしたスピードで子供達の心に響いていきます。

そうして叱った後は、同じくアンケートの内容を基に子供達の良い点をうんと褒めていきます。

 

「でもよ、○○(名前)は幼稚園で小さい子の面倒をよく見るらしいなあ」

「そいは、良かことじゃっどな」

「そうじゃ、そうじゃ。」「偉いなあ。これからも、しっかり見るんだぞ。」

 

トシドン様に褒められた子供達ですが、状況が状況なだけにニコニコ喜んだりするというよりは、叱られた時と同じで真剣な面持ち。長所をこれからも持っていくと約束をします。

 

その後は、本を読ませたり歌を歌わせたり、踊りや体操をさせたり、日頃していることの披露をさせます。

 

トシドン7

最後の試練は、トシドン様の恐ろしい顔についている長い鼻。その鼻に触ることができたらトシドン様の来訪は終了の時を迎えます。時には鼻に触った瞬間にトシドン様から「わっ!!!」と驚かされて「ぎゃー!」という子供も。

トシドン2

最後に、トシドン様は褒美として大きな「年餅」をくれます。

「年餅」を受け取るにはトシドン様の所まで四つんばいになって後ろ向きで行かなければいけません。そうしてその子は背中に大きな年餅をもらい親の所まで四つんばいで帰り年餅を渡します。

トシドン1

そうして、トシドン様は来年の年の晩にまた来るが、いつも悪いことをしたら天上界から見ているから今日約束したことをしっかり守って、お利口にしておくようにと子供達に伝えたあと、後ろ向きで後ずさり、外へ向かって出て行き、来た時と同じように大きな音を立てながら帰っていくのです。

私が感じた率直な印象は「トシドン様、これは怖いわ!子ども泣くのも分かるわ!」というのと「電気が真っ暗な中でこの行事は怖いな・・・昔、電気もなく、闇が恐怖だったのも分かる気がする、体感した・・・」というでした。

 

 

色々な仮面神信仰

「トシドン様に似ているもの、どっかにもあった気が・・・」と思ったそこのあなた。

そう、「悪い子はいねがー」の秋田のなまはげ、似ていますね。

鹿児島県の有人離島(鹿児島県離島紹介HP)にも以下の紹介があります。

トシドン(下甑島:薩摩川内市)

大晦日の夜に子どものいる家を訪れ,新しい年を迎える子どもの健康と幸せを願う仮面神。
トシトイドン(種子島:西之表市)

甑島からの移住者が伝えた,甑島の「トシドン」と同じ仮面神。

 

タカメン(竹島:三島村)

8月31日に行われる八朔踊りの際に現れ,住民の厄を払い,繁栄をもたらす仮面神。

 

メンドン(硫黄島:三島村)

旧暦の8月朔日(ついたち)と2日に行われる八朔踊りの際に現れ,住民の厄を払う仮面神。

 

オニメン(黒島:三島村)

9月1日に行われる八朔踊りの際に現れ,住民の厄を払い繁栄と収穫をもたらす仮面神。

 

ボゼ(悪石島:十島村)

旧暦7月16日の盆踊り最終日に現れ,死霊臭がただよう盆から,人々を新たなる生の世界に蘇らせる役目を負った仮面神。

 

諸鈍シバヤの面(加計呂麻島:瀬戸内町)

旧暦9月9日に平資盛を祀る大屯(おおちょん)神社境内で踊られる諸鈍シバヤの際にかぶられる紙面。

 

朝伊奈(与論島:与論町)

旧暦3月,8月,10月の十五夜に踊られる「与論十五夜踊り」の際にかぶられる竹と紙でつくった面。

国内だけでなく東南アジアにも似たような行事があると聞いたこともまります。色々なところに、仮面神信仰は存在するんですね。

 

温かく厳しい神様に見守られる島の子供達

スマートフォン(iphone、Android)のアプリで「鬼から電話」というものがあることを最近知りました。うーん・・・「親や家族ではなく人外の恐ろしい存在が子供の悪いところを叱る」という点では似ているものがあります。

でも、トシドン様は鬼ではなく神様ですし綿密なアンケートやヒアリング(トシドン様の中の人は子供達の知り合いのおじさんですし)を基にした具体的エピソードで叱りますし、なにより子供達を良く育てようという人々の温かみがあります。スマートフォンアプリは、個人的にはどうかな・・・と疑問に思う点もいささかありますが、トシドン様にそれを全く感じないのは温かみがあること、叱る際にはなぜそれが駄目なのかまできちんと伝えてあげる姿勢があることの違いなのかと思いました。

ちなみにだいたい、サンタさんを信じている年齢くらいまではトシドン様も信じられているようです。

 

観光振興とトシドン

ここからは私個人の個人的意見であることを予めお断りします。

観光による地域おこしに関わっている私。

見方によっては「イベント化して観光客を呼ぼう!」「お土産としてストラップを作ろう!」とトシドン行事を観光資源と捉え、甑島の振興に結びつかないかな、という考えを持つ人がいるのも分かります。でも、実際に昔からトシドン行事を行なってきた地域の考え方が「神聖な行事で、観光のために飾ったりキャラクター化したりしたくない。」と思っている人の考えは大切にするべきだと思います。(妖怪ウォッチにナマハゲは出ているらしいですが、トシドンは絶対に出ないだろうな。)

一方で、少子高齢化が進み、幼児教育として催行できるための「子供の数」が少なくなり、「あの集落は今年はしないらしいよ」という話も聞くと、その渦中にいるトシドン行事を催行している地域の人達が「観光客に公開するのか」「どうやって続けていくか」と葛藤しているだろうな、とも思います。

そんなトシドン行事に対して私が出来ることといったら、あくまでも神聖な行事であるトシドンは、神秘的な教育行事として接し、こうやって地元の人達が許す形で情報発信したり、厳かな素晴らしい行事で私が見たのはこんな感じだったよ、と知り合いに紹介したり、もし万が一これから何か観光客に対してアクションをとりたいと舵を切った場合はそのサポートをする、という事だと感じています。

なんでもかんでも、観光にすぐ結びつける事は良いことではない場合もある、というか

「地域の人達が自分たちの生活を(色々な意味で)良くするために観光というひとつの手段をとる」というのが順番であって、「観光で盛り上げる=地域にとってよいこと」という完全なイコールは成り立たないんじゃないかな、と。

 

いずれにせよ、今年もトシドン様に会えるのが私は楽しみです。ちょっと怖いけど。

(本日記の写真は、青瀬地区のトシドン様のものです。許可をいただいて掲載いたしました。ありがとうございます。)

 

 

★2015年1月26日追記★

鹿児島のニュース番組(MBCニューズナウ)で、手打地区の本町の様子が紹介されていました。

The following two tabs change content below.

せきこ

下甑島地域おこし協力隊
旅行代理店を経て東シナ海に浮かぶ下甑島の地域おこし協力隊に。 観光案内所のスタッフと観光商品や特産品の開発をしつつ、観光と地域の良い関わり方を模索中。

関連記事

no image

【動画紹介】甑島の空気感がぐっと伝わってくる「島に生きる VOL.01」。

  いつも写真と文字だけで下甑島の様子をお伝えしていますが 先日Youtube

記事を読む

DSC0619410

下甑島の知る人ぞ知る謎の巨石、竪石に32人と1匹で行ってきた。

最後のお別れ歩こう会。 下甑島の瀬々野浦集落では、3月1日に健児団の最後のお別れ歩こう会が行なわれ

記事を読む

DSC04701r

船旅は島旅の第一印象!離島在住の私の実体験に基づいた船酔い対策14か条

地域おこし協力隊の私は、市の嘱託職員ですが、事務所は観光案内所にあって観光客の人に多く接します。そこ

記事を読む

c75952d506632b7c04441afffc4b6e9c-213x300

【3,000円のおまけ付き】甑島でも使える!薩摩川内ふるさと旅行券始まったよ(市外の方限定)

「薩摩川内ふるさと旅行券」始まったよ。 「薩摩川内ふるさと旅行券」なるものが始まりました。

記事を読む

IMG_6544

【特徴は?範囲は?】5分でバッチリ分かる!甑島国定公園まとめ

甑島、国定公園になったよ。 私の住んでいる下甑島を含めた、甑島列島(上甑島、中甑島、下甑島

記事を読む

IMG_3230

【動画紹介】助八古道(下甑島)の物語

あけましておめでとうございます。 年末年始についての日記を仕上げられずにいたら、それより先に紹

記事を読む

Vine_V_white

6秒ループ動画アプリ「VINE」で甑島の港の様子を撮ってみた。

Vineって何? VineはTwitter公式の、最大6秒のループする動画を作ってソー

記事を読む

11042173_736918703088652_743601140_n

【流行必至】自撮り棒はもう古い!ラメ効果もある「下甑島自撮り」をご存知ですか?

「自撮り」って知っていますか? 記念写真のイラスト" by かわいいフリー素材集いらすと屋

記事を読む

woman-246236_1280

【妄想してみた】シチュエーション別甑島ライブカメラ活用法

ライブカメラって? 最近、Facebookページ「甑島便り」さんがハマってらっしゃるライブ

記事を読む

IMG_6194

【癒されスポット】いつもは15分滞在の瀬尾観音三滝を1時間かけて思いきり楽しんでみた

 瀬尾観音三滝(せびかんのんみたき)って? 下甑島の瀬尾地区にある滝。「瀬尾の観音三滝の水

記事を読む

Comment

  1. […] 下甑島からでっかくて冷たいのが届いた! トシドンが入ってたらどうしよう!?と […]

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


  • 鹿児島大学⇒旅行代理店⇒薩摩川内市下甑島地域おこし協力隊。観光商品や特産品の開発が主な業務内容。着地型観光と地域の良い関わり方と、それで自分が稼いでいく方法を模索中。
    ここは、地域の魅力を時に真面目に、普段はゆるーく伝える個人ブログです。

    ◆くわしいプロフィールはこちら


  • follow us in feedly
  • Instagram
PAGE TOP ↑